波動ホーン83E


設計
スピーカーを作ろうと決意するときって言うのは、何らかの理由が有るから行動に移すわけですが、その理由は大抵複数の条件が重なっています。
今回の場合は、フォステクスからFE83Eが発売されたことです。
前作のFE83は、私にとって非常に思い入れのあるユニットで、その新型が出たので使ってみたいと思うのは当然でした。

もう一つの理由は、古い友人との会話の中で生まれてきたものです。
彼が「今の若い連中は、自作すると言う選択肢が狭まって可愛そうだなぁ。」と発言したのがきっかけです。
私が「マーキュリーのユニットが安いから、金の無い奴はMS4301を作ればよい。」と言う展開になった所で、彼が「中学生には、まだ高い。半分の値段でオーディオに十分な特性を実現できないか?」と発言しました。
MS4301をマーキュリーのユニットで作れば、ペアで2.5万円ですので、半額ならペア1.25万円となり、一本辺り6千円そこそこしか使えません。
その時は「それは無理やろ、まぁMS4301が下限やろうなぁ、、、。」と結論を出したのですが、なんとか実現できないものかと考えていました。
そこで、登場したFE83Eが1本約3千円。ラワンサブロク一枚が約3千円なので、このペアで頑張ってみようと思った訳です。

さて、FE83Eの高音は十分伸びているので、問題は低音を如何にして稼ぐかが課題となります。
ダブルバスレフや共鳴管方式を使用すると、トーンコントロールの必要性が有りますし、このサイズの場合、どう頑張っても超低音を再生するのには無理が有りますので、バックロードホーンで行きます。
ホーンをフルに効かせて、トーンコントロール不要で、「MS4301」と同等のフラットレンジを実現するのを目標としたいと思います。

スワン型のバックロードホーンは、置き場所を選ぶので、普通のフロア型かブックシェルフ型にしたいところです。
また、後方や上方にホーン開口があるのも低音の再生効率と言う点で勿体無い感じがするので前面開口にしたなぁ、、、。
等といろいろ考えているうちに、を思い出しました。
「旗」はフォステクススピーカーコンテスト用に作成した実験機で、ユニットとダクトから出る音の位置が一致すると言うコンセプトを持っています。
それなりの効果が有りましたが、本当はバックロードホーンで実現したい方式でした。
設計が面倒な事と、先ずはコンセプトを簡単に実現する目的でバスレフにしましたけど、今回はやってみました。
ホーンの開口がユニットに限りなく近いと言う事は、スピーカーの近くで視聴する場合、低音の効率は悪くなく、8cmで低音を頑張らせるには良いかも。
問題は、バックロードホーンのホーン開口から出てくる中高音の漏れは、音に悪影響が有るので聴こえない方が良いと言う定説ですけど、これもフランケンで「気にする程では無い」と言う結論が(私の中に)有るので大丈夫でしょう。

構造が構造なのでサブロク一枚で切り出すのに妥協と苦労をしました。
そうして、空気室容量1.1リットル、スロート面積16平方cm、ホーン開口面積300平方cm、ホーン長さ約2mと言うホーンが完成。
FE83Eに背負わせるには厳しいかも知れませんが、頑張ってもらう事にしましょう。
図面では分かり難いかも知れませんが、一旦背板に抜けたホーンが上下に分割され、うねりながらキャビネット中心に戻って言って、前面で開くと言った構造になっています。

図面を見る1
図面を見る2
板取を見る

組み立て
カットされた板が送られてきて、カットのミスが無いかどうかの確認をして見ると、パーツ数が多くてビックリしました。(図面を引いた本人が言うのもナンだが)
実際のところ、カット代金が板の値段の数倍に成るので、「安く作成する」と言う目的を達成するなら、カットは安い所で行うか、自力で切らねばなりません。
しかし、仮組みすれば実感しますけど、このスピーカーの組み立てには、高い精度でカットされた板材が必要です。

このスピーカーは大きく3つの部位に分けて組み立てます。
一つ目はユニットを取り付ける空気室とスロートからなる、スロート部。(写真1
二つ目はスロートからスピーカーの背板を沿って上下に音道を振り分ける背骨部。(写真2
三つ目は、スピーカーの上下で音道を形成する音道部。(写真3

スロート部は、内側の管から順に組み立て、乾いたところで軽くペーパーを当てた後、外側の管を被せていきます。
一番内側の管は、15mm飛び出ていますが、これは実際に背板に嵌めた状態で組み立てると楽です。

背骨部は、板が細くて長いので、ボンドだけでは不十分で釘も併用します。
また、組み上げる前に、ターミナル用の穴を開けておいたほうが無難です。

音道部は、図面2の絵の様に補強を兼ねた木片を貼り付けていきます。
本当は、板に線を引いて、それに合わせて貼っていくのが正解ですが、数が多くて面倒なので、目分量で適当に貼りました。
目分量でも、狂いは2mm程度でしょうし、その程度なら音に影響が無いと思われます。
補強板を貼った各パーツが乾いたら、それを積み重ねる要領で接着して完成です。

さて、これらの部位を側板で挟み込む形で接着すれば完成ですが、その前に、完成後に塗りにくくなるであろう部分を黒く塗っておきます。
乾いたら、背骨部と音道部を側板で挟み込むようにして接着すれば、ほぼ完成です。
この時も、ボンドだけでは不十分なので、要所を釘を併用します。
残ったスロート部は、外部の塗装が完了してから、取り付けるほうが良いと思います。(ケーブルを引き回すのが、取り付けてからでは不可能)
塗装の事を考えるとターミナルやケーブルをつけてしまったから塗装するのはやりにくいでしょう。

塗装
さて、問題の塗装段階に入ります。
とにかく苦手で、満足の行く塗装が出来たためしが有りません。
塗装された今までの作品を他人に見せると「結構、綺麗に出来ている。」と言われる事が多いのですが、自分の中の合格点はメーカーの塗装なので、程遠い出来だと自覚しています。
さて、今回は、初めてモデリングペーストと呼ばれるパテを使用して見ました。
これは美術の世界で使われる、白いペースト状の物体で、キャンバスを平らにしたり、わざとデコボコにしたりするのに使われます。
使ってみた感想は、「との粉の代わりにはなるが、エポキシ系のウッドパテの様に大きな凹みには使えない」と言う事です。
とは言え、との粉に比べると木材に対する食いつきも強く、扱いやすいので、下処理の最終段階には十分使える物です。
大きな凹みは、水中ボンド(エポキシ系)で、小さな凹みはモデリングペーストで埋めて、表面を120番のペーパーを当てれば、下処理は完成です。
MS4301と同様、天地板と側板は、壁紙で済ませるつもりなのですが、バッフルは塗装するので120番では、荒すぎます。
そこで、例によって水性のニスを4〜5回塗った後、320番を当てると割に綺麗な平面が完成します。
最後に、黒のラッカースプレーを数回吹き付け、更に400番を軽くあて、最後に透明のラッカースプレーを吹き付けます。
スロート部を音道部を接着する前にケーブルの配線を済ましておきます。
その後、スロート部にボンドをタップリつけ、音道部にはめ込めば完成です。
なお、スロート部の正面は、シルバーのスプレーを吹き付けて、バッフルが空中に浮いている事を強調しておく事にしました。

視聴
さて、最初にビックリしたのが、中低音の量の多さです。
単に量が多いのは、後の測定で明らかになりますが、とても8cmのユニットの低音では無く、黙って聴くと20cmウーファーかと思うスケールの大きさが有ります。
ただ、バランス的にはローブストの感は拭えず、「失敗したかな?」と言うのが、第一印象でした。
しかし、量は多いもののブーミーな感じは少なく、スピード感と硬さ(存在感)が有る低音なので、慣れてくると、それほど気にならなくなります。

音の存在感は独特です。
ユニットが、取り付けられた位置で完全固定されている事が、この存在感を生み出しているのでしょう。
通常のスピーカーの場合、箱の柔らかさと、箱の存在を多少は感じるものです。
箱の上にオモリを置くと、音の出方がシッカリして力強くなりますが、このスピーカーは、そのままで何十キロものオモリを置いているような力強さが有ります。
最小のバッフルと、バッフルを支える構造が、非常に有効に効いているのは、間違い有りません。
また、ホーン開口から発射される音圧の高さも強烈で、ボリュームを上げると、箱はビクともしていないのに、手が風圧を受け振動しています。
通常のCD(50Hz以下の音が入っていない)の再生なら、パワーも入り、大きな音が出せます。
ユニットから放出されるエネルギーの全てが音に向けられているような、まさに「波動」のホーンシステムになりました。

測定結果と自己採点

40cmの台に乗せて、ユニットの軸上60cm。


同じく、ユニットの軸上60cm。(グラスウール入り)
中低音のレベルが下がり、ホーンの効きが弱くなっている。


ホーンの中にマイクを入れ測定。


ホーンの中にマイクを入れ測定。(グラスウール入り)
中高音の漏れが減っているのが見て取れる。


完成サイズは幅230、高さ530、奥行395mm、重さは13.5Kg。
測定結果は散々で、メーカー製のスピーカーでは、有り得ない形です。
大型の密閉箱でテストした時とは大きく異なり、1KH〜2KHのレベルが5dB高く、それ以下の中低音は10dB以上高くなってます。
50Hzのレベルが、中高音と変わらないのは、ホーンの効きが強い事を物語っています。
特性を良くしようと思えば、ホーンカットオフ周波数を下げ(開き具合を緩やかに)れば良いと思います。
しかし、ホーン開口面積を変えない為にはホーンの長さを伸ばす必要が有り、サブロク一枚では実現が出来ないでしょう。
実際、設計時に検討しましたが、結局は妥協した経緯が有ります。
ただ、結果的にはホーンの音圧レベルは十分だったので、開口面積を狭くし、同様のホーン長でフラットな特性を実現できたかもしれません。

ホーンが効き過ぎている傾向が明らかなので、空気室に6x18cmのグラスルールを入れてみました。
特性的には中高音の漏れが減り、フラットレンジ特性も良くなりましたが、視聴上は迫力が後退してしまいます。
折角の「波動ホーン」の威力が下がってしまっては仕方ないので、欠点には目をつぶって個性を生かす方向で使うべきだと判断しました。(グラスウールゼロ)

さてこのスピーカー、見方を変えてみると、20cmの同軸2ウェイシステムとも見て取れます。
通常の同軸ユニットと異なるのは、ウーファーユニットがホーン開口で、スピード感の有る低音を出す事。
ネットワークの存在が無い事。
それから、クロスオーバー周波数が200Hz以下で、ボーカル帯域(500Hz〜5000Hz)はフルレンジユニットから出ている事です。
しかし、箱にかかる費用と手間は、同軸20cmユニットを使ったシステムとは比べ様も無く大きく、またサブシステムに使うには巨大過ぎます。
見るべきものが大いに有るとは言え、特性的見ても問題が有り、満足度は65%ってところでしょうか。
FF85Kを使ったマーク2を作れば、もっと良い物が作れそうな気がするなぁ、、、。

2002年02月05日 更新
駆動力アップの為に直径50mm、厚み10mmのマグネットを追加しました。
グラスウールをスロートにかからないよう、空気室の一面に薄く張りました。

40cmの台に乗せて、ユニットの軸上60cm。
特性的には中低音が3〜5dBダウン、中高音が2〜3dBアップしています。

視聴上でも、随分とバランスが良くなりました。
それ以上に大きな変化は、中低音の切れで、バックロードホーンらしさがアップしました。
フェイク103Mでマグネットを追加した以上の変化で、これなら満足度を70%にしても良いな。



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